残り火
会社員時代、とあるクライアントの代表様は「うンー。うンー」(舌の根と口蓋をつけ、鼻から抜けるような“ん”の音。Ngと表記されるような軟口蓋音。)と、まずこちらの話が出尽くすまで、その特徴的な相槌でリズムを打つように説明を聞かれました。決して否定はせず相手に話を促すその聞く姿勢に、思わず交渉以上の内容を口に出しそうになり、それとなく水を向けられているようでした。
何をしたか何を言ったかという記憶は消えても、そういった姿勢や気配は長く思い起こされるようです。独特の口蓋音とともに。穏やかで優しく、抜け目のない眼鏡紳士でいらっしゃいました。
時間をかけて人間と会話したり、本を読破したり、映画館で鑑賞するのは、偏見でもあらすじでも斜め読みでもまとめスレッドでも手に入らない、それにまつわる姿勢や気配を取り込むための、唯一にして手間のかかる手順なのかもしれません。うンー。(2018.09.04)
コメントを残す